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順市

気象病における気圧と東洋医学

エスエル医療グループの機関誌、エスエルニュースニュースの2021年8月号に、「気圧と気象病」というタイトルの記事を掲載していただきましたが、それを、今回、自然療法士・認定心理士であり、現在鍼灸師を目指している息子のアドバイスをうけ、このブログ用に改変したものを紹介します。


気象病における気圧と東洋医学


気象病とは、文字通り気象の変化によって生じる体調不良や病気の総称です。


現在、日本において気象病で悩む患者さんは約1000万人とも言われており、近年の異常気象でさらに増加傾向にあると考えられます。


気象病には、花粉症や熱中症、寒暖の差によるヒートショックなど、その原因や対策がある程度わかっているものから、雨や台風の接近に伴って生じる頭痛、肩こり、めまい、神経痛、季節の変わり目に生じる喘息発作、気分の落ち込み(鬱)など、いままでその原因や対策がはっきりしなかったものまであります。(今までは、ともすれば気のせいとか単なる偶然として受け流される傾向にありました)


最近、気象病のなかでも、気圧の変化によって生じる様々な病態について、その原因や仕組みが解かってきていおり、それにより、いままで気象との関連について今一つはっきりしなかった症状や病態についても、ある程度説明ができるようになってきました


台風の接近などで気圧が大きく低下すると海水面が上昇し、過ぎ去ればもとに戻ります(気圧が1hPa(ヘクトパスカル)低くなると海面が1㎝上昇する)。このような外気圧の変動に応じて、人間の身体も膨張・収縮し、臓器や血管、神経なども少なからず影響を受けます


最近の研究において、耳の奥の「内耳」に気圧の変化を感知するセンサーの存在が解ってきており、これが自律神経に指令を出して、外気圧の変動に対して何とか体内の環境を一定に保つよう調節しています。


その調節が追いつかない場合、例えば、肺の圧が上昇すれば喘息の悪化が生じます。

頭の血管が膨張しその傍にある神経が圧迫されれば頭痛が生じます。

また圧の上昇により血管から水分が染み出すと手足にむくみが生じます、そして平衡感覚をつかさどる「内耳」にむくみが生じるとめまいがおきます(図1)

また、今度は気圧の変動に気圧センサーや自律神経が「過剰反応」してしまうことがあり、そうすると痛みや気力に影響するセロトニンという脳内物質の分泌に影響が出て、神経痛や気分の落ち込みの原因となります。

またこの過剰反応が極端な血管の収縮・拡張、脈拍の変動を引き起こすことがあり、これは血圧の乱高下や心筋梗塞の発症、不整脈の発作につながります(図2)。


東洋医学では、身体をめぐる「気(き)」、「血(けつ)」、「水(すい)」のバランスがよくなれば健康維持につながるとされ、さらに、昔から、気象を風寒暑湿火の「六気」に分けて病気と関連づけてきました

この六気の中に気圧にピッタリ当てはまる要素はありませんが、身体の中で体液の偏りが生じた状態を「水毒(すいどく)」と言い、体や精神を健康に保つ「気」の流れがスムースでなくなることを「気滞(きたい)」と言います。


気圧の変動による気象病は、まず、血管の膨張やむくみを生じることから「水毒」と言うことができ(図1)、さらに気圧センサーの過剰反応が引き起こす自律神経の不安定性は、血圧の乱高下、動悸、消化管の運動障害(腹満、下痢、腹痛)などの様々な身体症状に加え、イライラや気分の落ち込みなどの精神症状を生じることから「気滞」の状況と言えます(図2)

漢方薬の五苓散や苓桂朮甘湯は水毒によるむくみ、めまい、頭痛などの症状に効果があり、苓桂朮甘湯はさらに気滞による立ち眩み様のめまいやストレスによるイライラ、気分障害にも効果があります

(図3)


経穴(ツボ)療法の代表的なものに鍼灸があるが、それらにおいて、水毒全般には足の裏にある湧泉(ゆうせん)というツボが、水毒によるめまいには手の甲の小指と薬指の間にある中渚(ちゅうしょ)というツボが有効とされます。

東洋医学からみた肺の役割は水分の交換であることから、気圧変動で肺が鬱血し水毒の状態となって生じた喘息発作には、肺経(はいけい)という経絡にある手の母指球上の魚際(ぎょさい)というツボも有効とされます。これらは名前からもわかる通り(泉)、(渚)、(魚)など水に関する名前がついていることから水(すい)の巡りを良くします

また、気滞における気分の落ち込みや自律神経の安定化に対しては“心”の名の付く経絡、心包経(しんぽうけい)の代表的なツボ、内関(ないかん)や郄門(げきもん)、そして“怒りは肝に宿る”とされる肝経のツボ、「大衝(たいしょう)」が有効とされます。


最近はスマホなどのアプリでも気温だけでなく気圧の変化も容易に知ることができるので、それらを活用して自ら気象を予測しながら、必要に応じてあらかじめ薬を服用したり、自らツボ刺激やお灸をするなどの工夫も有用と考えます。また※気象病の専門医も推奨する耳マッサージ(内耳の血流をよくする)も効果的です(図4)。         

                 ※愛知医科大学、中京大学 佐藤 純 教授 

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