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順市

がん治療の進歩に思う(ゴールデンウイークが終わって1週間)

長~いゴールデンウイークが終わって1週間が経とうとしていますが、まだまだ本調子に戻れない人も多いのではないでしょうか。何を隠そう私もその一人です(笑)。

令和になる直前の4月27日、28日、29日には医学会総会と内科学会総会の両方が名古屋で同時開催されました。




私の専門は循環器ですが、今回、両学会で私の印象に残ったのは、循環器とは直接は関係のない“がん治療”の進歩、特にニボルマブ(オプジーボ)を中心とした免疫チェックポイント阻害薬についての発表でした。

昨年の本庶 佑先生のノーベル賞受賞以来、オプジーボについては、マスコミ報道も多く、注目されていたこともあり、オプジーボの効果の仕組みについて、私もちょっとは解っていたつもりでした…。

しかし、さすが、学会に参加すると目から鱗のこともたくさんありますね。

オプジーボの効果の仕組みは…

“がん細胞”をやっつける“活性化T細胞”は、“PD-1”というものをもっているのですが、これは、自分自身がやみくもに暴走していろいろな細胞を攻撃しないようブレーキをかける装置です。

これにリガンドと呼ばれる“PDL-1”とか“PDL-2”という物質がくっつくと、ブレーキ装置が働きます。

ですから、“活性化T細胞”に攻撃されたくない細胞は、これらの物質を分泌するわけなのですが、なんと、“がん細胞”も、T細胞にやられているうちにこれらのリガンドを分泌するようになり、自らを攻撃されないようにして、増殖していきます。

これらリガンドがくっつく“PD-1受容体”のことを“免疫チェックポイント”と言いますが、オプジーボは、この“免疫チェックポイント”である“PD-1受容体”に先にくっつくことで、リガンドであるPD-L1、PD-L2がくっつくのを邪魔(阻害)し、“活性化T細胞”が“がん細胞”を攻撃するのにブレーキがかからないようにします。

また、いままでブレーキがかかっていた“活性化T細胞”の働きも復活させ、がん細胞をやっつけます。

以上から、オブジーボは“免疫チェックポイント阻害剤”と呼ばれるのです。


ここからは、今回の学会で、わたしにとって目から鱗であった部分ですが…


まず、オプジーボ以外にも、他に複数の“免疫チェックポイント阻害剤”がすでに開発され、実用、もしくは試されており(例えば、抗PD-1抗体(PD-1を邪魔する薬)ではキイトルーダ、抗PD-L1抗体(直接リガンドであるPDL-1を邪魔する薬)ではテセントリク、イミフィンジ、バペンチオ)、抗CTLA4抗体(他の免疫チェックポイントであるCTLA4を邪魔する薬ではヤーボイなど)、これらが一定の成果をあげていること。

そして一部のがんには複数の“免疫チェックポイント阻害剤”の併用すら認められていること。


また、最近は、“がん細胞”が分泌するリガンドである“PD-L1”を検査で測ることができるのですが、先に書いたオプジーボの効果の仕組みからすると…

“PD-L1”を測定した結果、その活性が高い患者さんにおいては、オプジーボの効果が高く、低い患者さん(すなわちPD-L1が関係していないがんを持つ患者さん)においては、効果に乏しいはずでした。

ですからPD-L1の測定結果はオブジーボをはじめとした“PDL-1”、“PD-1受容体”が関連した“免疫チェックポイント阻害薬”の“効果の予測”に非常に有用であると考えられると期待され、実際、当初はそのように考えられていましたし、私もそう思っていました。

しかし、実際は、“PD-L1”の活性が低い人にもオブジーボは一定の効果があることがわかっていることが示されました。

その理由としては、

●“PD-L1”以外のリガンド(例えばPDL-2)が存在すること。

“活性化T細胞”以外の免疫細胞の存在、ともすればがん細胞の味方をさせられる免疫細胞の存在があり、それらもリガンドを分泌することから、がん細胞からの分泌と紛らわしいこと。

●最初は“PD-L1”が低くても、それが“がん細胞”の一部のみ低かっただけである場合や、当初“PD-L1”低くても他の薬によるがん治療過程においてがん細胞が“PD-L1”を分泌するようになり、その後のオプジーボによる治療に反応することがあること。

ということがあるようです。


あと、オプジーボについては、本庶先生のノーベル賞受賞の発表の後、その“驚くべき効果”と同時に、“副作用”についても、“重篤になれば死亡例もある”などと、多く報道されました。

そのため、私も含め、世間の多くの人は、副作用がでてしまったら、もう”オプジーボによる治療はあきらめねばならない”と思っていたのではないでしょうか。

また副作用を恐れるあまり、オプジーボによる治療を勧められても、ことわる患者さんも少なからずあったと考えられます(高額ということもありますが)。

しかし、今回の学会における発表で、実は、“副作用が起きたが、それを克服できた人”のほうが、むしろ、がんに対するオプジーボの奏効率も高く余命も長いというデータが示されました(ただし、がんの種類にもよりますが)。

したがって、副作用が出たら、無条件にオプジーボによる治療をあきらめてしまうのでなく、副作用に対する慎重かつ綿密なマネジメントを行うことが、最終的に患者さんの利益になるということになりますね。



また、私も日頃の循環器診療において、患者さんによく処方する脂質異常の薬(中性脂肪を下げる薬)である“ベザフィブラート”との併用が、オプジーボの効果を増強させるという内容も、本庶先生自らのご講演の中で聴くことができました。

これについては、臨床治験もはじまっており、またベザフィブラートはジェネリックもでている比較的安価でかつ重篤な副作用も少ない安全な薬であるため、その結果に期待したいところです。



医学会総会の最終日(4/29)には、本庶 佑先生と山中伸弥先生の二人のノーベル賞受賞者の講演があり圧巻でした。(これは結構すごいことだと思ったのですが、翌日の新聞各紙には、あまり大きく取り上げられていませんでした)。

山中先生はIPS細胞で有名ですが、山中先生は、自身の研究におけるがん治療への応用の一つとして、あるNHKの番組でも語っておられましたが、例えば、PD-1受容体がリガンドの影響を受けにくいようにした“T細胞”をIPS技術で作り出し、それを体内に戻すという方法は理論的には可能であるとのこと。

これはまさに山中先生の研究成果であるIPS技術と本庶先生の研究成果を用いたハイブリッドのがん治療ということになりますね。


今は、2人に一人は“がん”になる時代。

今後の “がん治療”のさらなる進歩により、転移例などある程度進行したがん患者さんにおいても、昔とは違って今以上に長期生存が可能となり、昔は”奇跡”と言われたような完全寛解をする例もどんどん増えることでしょう。

そして、もう既に、がんは、高血圧症や糖尿病と同じように“上手に付き合っていく慢性疾患である”と、名実ともに言えるようになってきているのです。

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