“帯状疱疹”とは、子供の頃かかった水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスが、治癒後も完全には消えずに顔面、首、躯幹、腕、脚、につながる神経の中に潜(ひそ)んでいて、それが、その人の抵抗力や免疫力が下がった際に、潜んでいる神経の走行に沿って増殖し、最終的には皮膚に到達して、赤い発疹、水疱(水ぶくれ)として顔を出してくるというものです。
神経の走行に沿って水疱が出てくるため、帯状、または島状の形態を呈することから“帯状疱疹”と呼ばれるのです。
例えば首から下の体幹の神経は、体の中心にある背骨(脊髄)から外側(端)に向けて左右に分かれて走行するので、帯状疱疹が、胸から腰の部分に出現した場合は、まさに身体に巻く帯のように水疱が出現し、広がっていくことがあります。
そして“神経”と“皮膚”に関連する疾患であることから“ズキズキ”、“ピリピリ”といった“神経痛的”、かつ“皮膚の表面的な痛み”も合わさった、なんとも表現できない痛みを生じ、時には我慢できないくらいになるときもあります。
また、皮膚に水疱が出てくる前にまず痛みが先行することがあるため、最初は内臓疾患を疑われることもあります。
ただし、背骨(脊髄)からの神経は左右に分かれて走行することに関連して、原則、身体
の片側にしかでません。ただし、ごくまれではありますが、非対称性に2ヶ所以上、あるいは対称の両側性に水疱が出現する症例もあるようです。
俗に“帯状疱疹は身体一周回ると死亡する“といわれますが、帯状疱疹が直接原因となって死亡することは非常に稀なのでこれは迷信といって良いでしょう。
痛みと水疱が、長いと2~4週の経過で徐々に横に広がっていき、水疱が“かさぶた”となり落ち着いた後も、痛みはそれ以上の期間残存することで苦しむことがあることから、そのように言われたと考えます。
ただ、帯状疱疹で死亡することは稀なのですが、 怖いのは(後で述べますが)“後々まで残ることのある後遺症”によって“生きながらにして苦しむ”ことがあるということです。
帯状疱疹のウイルスは、”水痘帯状疱疹ヘルペスウイルス“と呼ばれ、治療にはヘルペスウイルスに効く抗ウイルス薬が用いられ、それらには点滴薬と内服薬があります。
ウイルスが増殖し、神経や皮膚への攻撃が長引くと、その分ダメージが大きくなります。
したがって、ウイルスが神経や皮膚に与えるダメージが少ない早い段階で治療を始めることが大切です。
早期に治療を開始すると経過も良く後遺症も減るとされるので、
“これ帯状疱疹かな?”と思ったら、はやめに医療機関を受診することをお勧めします。
特に、首から上、顔面、眼周囲、耳周囲にできた帯状疱疹は注意が必要です。
顔面の痛みや発疹は、“他の部位よりもつらい”のはもちろんのこと、例えば、顔面神経が障害されれば麻痺が起こり、顔がゆがんだり、こわばって目を開けたり閉じたりできなくなることもあります。
また、目の周囲にできた場合、病変が角膜まで波及すると治癒後も角膜が濁り、角膜移植が必要となることもあります。さらに耳の周囲に出てきた場合は難聴やめまい、顎のあたりに出た場合は味覚障害をともなうこともあります。
このような場合、時には入院において、精密検査ならびに通常より強い治療を行うことがあるので、よりはやめの受診が推奨されます。
このような帯状疱疹ですが、日本で約60万人が、また、年齢が上昇するほど発症頻度が増え、80歳以上の3人に1人がかかるといわれています。
そして、中でも問題となっているのは“帯状疱疹後神経痛”と呼ばれる痛みの後遺症です。
ウイルスによって神経の細胞が強く傷つけてしまった場合、帯状疱疹が治っても痛みが続きます。この痛みは、絶え間なく続く場合もあれば、間が空くこともあり、また、夜間に強くなり眠れない場合や、寒い時期にまるで古傷が痛むがごとくひどくなることもあります。
時に、痛みで他のことが手につかなくなる事さえあり、その期間は数ヶ月、そして痛みが記憶に残ってしまうと一生付き合うことになる可能性があります。
そして、先に述べた通り、早期治療により、この“帯状疱疹後神経痛”の発症の確率や程度を軽くすることはできますが、50代以降からさらに高齢になっていく程、これが、帯状疱疹を発症した場合の後遺症として残る確率も高くなり、10~50%の人がこれに悩まされている結果となります。
“帯状疱疹による痛みの緩和”をターゲットとした鎮痛薬もありますが、ふらつきなどの副作用のこともあり、私の中では臨床の現場において、十分な効果を発揮しているとは言えない印象です。
この様な中、昨今、帯状疱疹およびその後遺症を予防接種(ワクチン)によって予防しようという動きが始まっており、日本においても、現在2種類のワクチンが使用可能となっています。
これらは、決して“100%帯状疱疹の発症を防ぐことができる”というものではありませんが、他の疾病におけるワクチンと比べても、その予防効果はかなり高く、また、たとえ帯状疱疹になったとしても、これらのワクチンが接種してあれば、やっかいな後遺症である“帯状疱疹後神経痛”の発現と程度をかなり抑えることができるとされます。
帯状疱疹に対する予防接種においては、各自治体による費用の助成もはじまっており、これらは今後、数多くの方を、“帯状疱疹”、
および“その後遺症による苦しみ”から救う為に、なくてはならない重要な手段のひとつとなるでしょう。
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